※web用に横書きに変換していますが実際は縦書き二段構成になっています。ご了承下さい。



「式、こっちの女の子が瀬尾静音ちゃん。覚えてる? 去年の夏も――」
「未来視の女だろ。覚えてるよ」
 いつかも同じような答え方をしたな、と思いつつ返事をしてやると、次に幹也は私を指した。
「で、静音ちゃん。こちらが両儀式さん」
「は、はじめましてっ!」
 少女は子犬が尻尾を振るように、否、見知らぬ相手に警戒するような勢いで挨拶したかと思うと、
そのまま「えーと」とか「あの」、なんてハッキリしない様子で何やらもごもごしている。
 この炎天下で、このわけのわからないシチュエーション。
 暑さも相俟って、私は盛大にため息をついて真っ黒男を睨み付けてやった。
「……で、幹也。オレとこいつを引き会わせて何がしたいんだ。仲良く映画でも行こうとか寝ぼけたこと言うなら、オレは帰らせてもらうぞ」
「それもいいけど、そうじゃないよ。静音ちゃんが君にどうしても伝えたいことがあるっていうから」
「オレに?」
「は、はい」
 俯いた顔を上げて、少女は不安そうに、しかししっかりとこちらを見つめてくる。
 直面した目は背丈には似合わず、年齢よりずっと大人びて、遠くを見ているかのようだった。

 未来を視る、目。
 私と同じ異質な目。しかし確実に違う目を持った彼女は、じっとこちらを見て。

「大丈夫です。貴女の選んだ未来は、きっと間違っていません」

 瞬きして、もう一息継いでから。


「彼のユメは、もうすぐ叶います」


 一年前には程遠く。死を連想させる映像だけを持っていたという私――両儀式に、確かな灯り(みらい)を、きっぱりと告げてきた。



 ――――「祈願星」収録、「ファンファーレ」より










「これでも妹が生まれるまでは後継として育てられたのだけどね。
妹が――式が、二重人格だったと分かってからはもうこちらは蚊帳の外。邪険にこそされなかったけど、
おそらくあの時、父の眼中から両儀要という人物は消え去ったんだろう。
式も僕も、望んでこの家に生まれたというわけでもないのに」


 やけに饒舌な要さんは、遠い過去を僕に言い聞かせているようでその実誰に向かっているわけでもないのだろう。
 しいて言うなら、そう。

 おそらくは、彼を『コロシタ』原因となる――


「生まれたときから十年以上、与えられていた場所を奪われた気持ちは、わかるかな」

 背筋に冷たいものが走る。
 ぞっとするほど綺麗な笑みさえ浮かべて、僕の頬から顎、首を、人差し指ですうっとなぞった。
 冬のせいではない冷たい空気が、二人の間に流れる。



「ときどき――本当に、たまにだけどね。妹が、壊れてしまえばいいのにと、思うんだ」



 ……おそらくは、今まで誰にも告げたことがないだろう呪いの言葉。

 式は後継の席に興味なんか持っていない。要さんも心の底からこの家を欲しがっているとは思えない。
 しかし、少年のころから言い聞かされ、そうだと信じ込まされていた或り方を一瞬で掠め取られた記憶はきっと、
痛みとなって残留し続ける。
 年月を踏んで色あせたとしても、決して消えることはなく。


「そうなったとしたら、貴方は満たされるのでしょうか」





 ――――「祈願星」収録、「土に融ける」より



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